ジャーナリストが自転車レースの現場で経験したある2つの出来事 / A Pro tease or a ProTease? By Shane Stokes
Tales from the Press Room: A Pro tease or a ProTease?
By Shane Stokes, 12 Mar 2013, for “Roar”
私が自転車レースを取材していて最も当惑したーそして動揺させられたー経験となった2つの出来事は、オペラシオン・プエルト事件のころ、ちょうど5ヶ月の間隔を置いて起こった。それはある年の9月と、その翌年の2月のことだった。
それらは両方ともスペインでの、ステージレースでの出来事だったが、関わった選手とチームは違っていた。両方ともドーピング薬物に関してかもしれないが、それは読んだ方の判断にお任せする。
最初の出来事はブエルタ・エスパーニャで、レースで最も厳しい山岳ステージの一つの頂上ゴール、総合争いが決される時が近づいた日のことだった。
選手たちは、最後のタイムトライアルを除けばその日が勝負になるということを知っており、目玉の飛び出すような形相で力を振り絞っていた。
筋肉は厳しい斜度に打ちのめされ、身体は登りでの激しい風に繰り返し吹きつけられ、先頭集団はバラバラになり選手たちは1人2人と頂上へ達することとなった。
ゴールすると彼らは地面に倒れ込み、呼吸と正気を取り戻そうとし、暖かい服を着、やがてチームバスに落ち着こうと、いま登ってきたばかりのコースに沿って下って行くのだった。
レースはまだ何日かを残していたが、その日のステージは決定的であったがため、頂上にはある意味での安堵感もあった。多くの選手が最後の厳しい山岳ステージを終えたことに目に見えて満足していた。
レースの終わりが地平に見え始め、総合順位はほぼ固まった。
私は頂上で1人の選手と話をし、彼がいま終えたステージについてのコメントを取った。彼は山岳での自分の十分な出来に満足し、非常に機嫌が良かった。
そしてそれが起きた。彼はレッグウォーマーを下に入れるためにショーツの裾を捲りあげたが、彼がそのライクラの生地を引き上げると、2つの小さな錠剤が地面に落ちた。
私は凍り付き、何を考えていいのか解らなかった。彼は話し続け、起こったことをほぼ無視していた。
彼がその錠剤を拾ったのか、はっきりとは覚えていないのだが、おそらく拾ったのだろう。
その選手はその事に触れなかったし、私は、彼のまるで懸念していない様子に、それはカフェインのような問題ない錠剤だったのだろうと理由付けし、彼にその事を尋ねなかった。
それは一瞬の出来事だったが、その後長い間私のなかで引っかかり続けた。
今日まで私は自分がどうすべきだったのか解らない。彼が平然としていたことは確かだった。彼は、何かまずいことをしたというようには振る舞わなかったし、起きたことに慌てたようにも見えなかった。
一方で、自分が見たものを彼にたださなかったのは間違いだったのかもしれない、とも後で思ったのだ。
おそらくその事が、そのちょうど5ヶ月後スペインの別の場所で起きた出来事に、私が違った対応をした理由なのだろう。
その日、まず注意を引いたのは、あるトップチームの名前が入った長袖のトップを着た女の子だった。
彼女は連れとそのレースのゴール付近を歩き、オフィシャルエリアのバリアの後ろに立って選手たちが来るのを待っていた。魅力的で自信あふれた20代前半の彼女は、フィニッシュ地点の群衆のなかで際立っていた。
レースは激しい展開で、ポディウムのアナウンサーが起きていることを伝えていた。小集団が抜け出し、ゴールへと猛走していた。
他のチームが後ろから激しく追い上げたが、どうやら逃がしたようだ。追走は届かず逃げが決まり、その日の勝者はあの女の子のチームの選手だった。
彼女は大いに喜んでいた。勝った選手はポディウムへ上がり、シャンペンを飛ばし花束を受け取り、そしてその後花束を彼女に渡し、唇にキスを受けていた。つまり彼女は、少なくともその選手にとってはただのソワニュールではないということだ。
そこまでは何も奇妙なことではない…スポーツのルール上はだ。
だがその次に起きたことに、私は自分の頬をつねることになる。
シャペロンがその選手に近づき、その日のドーピングコントロールが行われるバー兼カフェを指差した。表彰式とインタビューを終えた彼は、女の子が着ているのと同じようなチームの長袖ジャージに身を包み、彼女と一緒にその建物の方へと歩いていった。
私はその直前の彼の写真を撮っていた。習慣通り、ジャージは襟まで閉じられ、身体はレース後の冷えに備えて温かく包まれていた。
そして、建物に入る直前、その選手と女の子は立ち止まり、お互いに直角になるような向きになった。一瞬のことだったが、はっきり記憶している。
彼らの背中で視線は遮られていたが、彼が振り向いたとき、ジャージは下まで開けられていて、ショーツは元の位置に戻そうとされているように見えた。
何事かが起きたのは明らかだった。我らがロミオが熱いキスに刺激され、彼女に「それ」を見せるためにショーツを下ろしていたか。
または彼女が、彼が服の中に入れる何かを渡したか。
プロテアーゼという物質 —尿に入れることで尿中のEPOの存在を隠蔽できる粉— が使用されていることを知っていた私には、より後者であるように思えた。
それは「何だって」というような瞬間だった。2人は建物の中に入っていった。
私は外に立ち、頭を抱えていた。何をするべきか解らず、1分ほど考えたのち、電話を取り出してUCIに電話した。
「たったいま疑わしいような事を目撃したのですが、確かではないのだけど。」私はそう言い、起きた事を説明した。
あの女の子が本当にマスキング剤を彼に渡したのか、それとも単に彼がその部分を見せたかったのか、確かめることは出来なかったが、もし前者なら検査結果がそれを裏付けるだろう。
少々科学の話になる。注射で使用された場合ドーピング違反だが、EPOは体内で自然に造られるホルモンでもあり、体内には常に一定レベルが存在している。ドーピングコントロール検査は、外因性のEPOと内因性のEPO、つまり、外から入れられたものと体内で作られたものを識別して行われる。
もし選手がプロテアーゼを使用すれば、サンプルには、体内で自然に造られるはずのEPOも全く存在しなくなる。
UCIには、または誰であれ検査結果を見るものにとっては、何かおかしな事が起こったのが明らかだろう。
疑わしい検査結果についての知らせが入る事もなく、数ヶ月が経った。UCIが私にコンタクトを取ってくることはなく、その件は立ち消えたように思えた。
だが数年後、その選手は別のレースでEPO使用で捕まり、長い資格停止を受け、やがて引退した。
そして最初の話の選手は —偶然にもこちらもショーツ絡みだった— 話の時を含めた時期に、ドーピングしていたことを認めている。
これらの出来事はこの数ヶ月、私の頭をよくよぎる。もし自分がこうしたことに出くわしたらどうするか、どうぞ考えてみてほしい。
あなたは最初の選手を問いつめるだろうか?2番目の話の選手について、UCIに連絡するだろうか?
あなた方の1人1人に違った意見があるだろうし、何をすべきかについて自身の気持ちがあるだろう。
それを考えてから、もしあなたがその選手のチームメイトだったらどう行動したか、考えてみてほしい。
何かを言うか?何も言わないか?自分の懸念をチームに、UCIに伝えるだろうか?
それは確かにグレーなエリアだ。ルールが破られているのか定かでない場合は、そして特にそれが、物事が今よりももっと曖昧だった10年前のことであったら。
その頃に言葉を発した人々の中には、それにより職を失ったり、また少なくともチームの中で居場所を失くした者もいる。そしてたとえ自身がドーピングに反対していたとしても、何も言わないことを選んだ人々もいる。
確かなのは、起こっていたことをまるで気にしていなかった人々がいるということだ。もしレースに勝っていて陽性を出していなければ、それでいいと。結局、見えざるを決め込むことが、まるで普通のことだったチームがあったということなのだ。
少なくとも今は、アームストロングとUSADA事件の、またオペラシオン・プエルト事件のくすぶるあと、それらの態度は変わったという希望がある。
だが、あなたならどうしていただろうか?
(訳者註)ストークス氏は選手の名をぼかしているが、2番目の選手については当時アスタナに所属していたアントニオ・コロムと推定される。